未来を試す

第1回 「みらいファッションラボ」イベントレポート 前編

登壇風景


登壇者:Mistletoe株式会社 代表取締役社長兼CEO 孫泰蔵さん
有限会社シアタープロダクツ 取締役 PRODUCER&PRESS 金森香さん
ファッションコンサルタント 市川渚さん
ITジャーナリスト兼コンサルタント ifs未来研究所外部研究員 林信行さん

2016年11月25日(金)、三越伊勢丹ホールディングスとifs未来研究所が一緒に立ち上げた「みらいファッションラボ」(以下、ラボ)の第1回イベントを開催しました。
「ラボ」のテーマは、「デジタルは、ファッションを幸福にできるか。」。
「ファッションって、恋」を合言葉に、様々な業界の人が意見を交わし、カタチ化するきっかけとなる企画を行なっていきます。
 
今回、ゲストにお迎えしたのは、スタートアップへの投資や共同創業、起業家育成に取り組む、Mistletoe株式会社 代表取締役社長の孫泰蔵さんと、ファッションブランド「シアタープロダクツ」取締役 PRODUCER&PRESSの金森香さん、ファッションコンサルタントの市川渚さんです。
 
未来研外部研究員の林信行さんのナビゲーションで、それぞれが関わる「ファッション×デジタル」の事例や、現在のファッション業界が抱える課題、AI(人工知能)と人間の未来について、お話頂きました。

★ ★ ★
 
●「デジタル革命は、ファッションの世界を変えた」のか?
 
林信行(以下、林): ifs未来研究所 外部研究員の林信行です。この「みらいファッションラボ」は、ファッション側の未来研所長 川島蓉子と、テクノロジー側の僕とが共に、「テクノロジーとファッションがどう結びつくのか」を考え、カタチにしたいという想いから始まりまったものです。
そこから、三越伊勢丹ホールディングスの北川竜也さんに声を掛け、伊勢丹と未来研がチームを組み、こうしたイベントを通して、ファッションとテクノロジーのいい合わさり方を探しているところです。
 
まずは、ファッション業界とテクノロジー業界の結びつきの例を紹介します。
2016年5月から9月、ニューヨークのMetropolitan Museum of Art(The Met)で、「Manus×Machina: Fashion in Age of Technology」の展覧会が開催されました。これは、AppleとCondé Nastがスポンサーを務めたテクノロジーとファッションの展覧会で、会場のThe Costume Instituteを使用した、かなり大規模なものでした。
 
入ってすぐのところに、CHANELのウェディングドレスと共に、デザイナーのカール・ラガーフェルドのこんな言葉が書かれていました。
 
「デジタル革命が、ファッションの世界のすべてを変えてしまった。」
 
ラガーフェルドは、ドレスのシルエットだけを簡単にスケッチして、テキスタイルのバロック調の模様などは、コンピューターを使って、デジタル的に合成したのだそうです。
 
ファッションとテクノロジーの組み合わせは、非常に多岐にわたっていて、有機ELや電子ペーパーなどの新しい素材を使用したファッションプロダクトが作られています。
こうしたファッション×テクノロジーは、日本がリードしている部分もあり、The Metでの展覧会も、ISSEY MIYAKEや川久保玲が多くを占めていました。
 
前回に引き続きご登壇くださっている市川さんは、ファッション×テクノロジーはどのように見ていますか?
 
市川渚(以下、市川): ラグジュアリーブランドのPRを経て、現在はフリーランスで活動している、ファッションコンサルタントの市川渚です。
私は、これまでの知見を活かし、ファッションとテクノロジーの間に立って、双方を繋ぐ役割を、執筆やコンサルタント、アドバイザー等といった業務を通して、務めさせていただいています。
 
先ほど、ノビさん(林信行さん)からお話があった電子ペーパーを使用したファッションプロダクトで言うと、SONYのFashion EntertainmentsプロジェクトがISSEY MIYAKEと共同開発したバッグは、現代のファッションに溶け込んだテクノロジーの提案として、一つカタチが見えた気がしました。
 

ISSEY MIYAKE: SPRING SUMMER 2017 Collection from ISSEY MIYAKE INC. on Vimeo.

今まで、色が変わるという「仕組み」の部分ばかりフォーカスされていた電子ペーパーを、ISSEY MIYAKEは「素材」として扱い、穴を空けて、レザーを編み込んだのです。
テクノロジー側の人なら穴を空けることすらしないそうで、この発想は、異分野であるファッション業界の人ならではのものだと思います。テクノロジーが溶け込んだファッションプロダクトとして面白く、希望を感じました。
 
林: 今回のゲストの一人、孫泰蔵さんは、Yahoo!JAPANの創業に携わるなど、日本のIT業界に大きな貢献をして来た方。現在は投資家として、様々なベンチャー企業などを応援していますが、ファッション分野も増えてきているようです。
 
孫泰蔵(以下、孫): Mistletoe株式会社 代表の孫泰蔵です。私はこれまで、約20年ほどインターネットの世界に身を置いていますが、2013年にMistletoe(ミスルトウ)を立ち上げました。
出資や支援を行っていますが、単なるベンチャーキャピタルやインティメートとは異なる、Collective Impact Studioという新しい業態を提供しようとしています。多様な新しい技術を開発している方を応援するだけでなく、それらを組み合わせることで更に大きなインパクトを創り出す、様々なプロジェクトを手掛けています。
 
孫泰蔵2

私たちは今、50社以上支援を行っていますが、「みらいファッションラボ」に関係するようなプロジェクトをいくつか紹介します。
 
まずは、光る靴「Orphe(オルフェ)」。
ソールの中にLEDが入っているのですが、内蔵された速度センサーによって、動きや音楽に合わせて光り方が変わります。ダンサーの方はもちろん、舞台美術などでも使用できるモノだと思います。
 

次に、バッグに入る車「WALKCAR(ウォーカー)」。
開発者の方々の、「筋斗雲のようなものを作りたい!」という想いを実現したモノです。進みたい方向に身体が動くのですが、ちょっとした傾きを検知して、それによってスピードを調整しながら進みます。加速度センサーなどを内蔵し、それらで調整を行っているのですが、そのチューニングに4年程費やしています。
 
扱いは簡単で、5分くらいで乗れるようになりますし、渋谷の雑踏の中でも全然大丈夫。
今はプレーンな姿ですが、ここにファッション性を入れていくと、もっと面白くなるかなと思っています。
 
「WALKCAR」が常にある暮らしになると、移動に対する感覚が変わると思います。
例えば、未来研がある外苑前に勤めていたら、ランチはこの近辺で食べますよね。タクシーに乗ればワンメーターだけど、渋谷に行こうとは思わない。でも、これがあると「赤坂見附まで行こうかな。」という気になるんですよ。
 
つまり、「動く」感覚が少し変わるので、そういう意味では、ファッションも着ることによって気分が変わるものですが、それに近いものがあるのかなぁ、と。
 

このように、まだごく一部ではありますが、とても面白いことを20代の若い人たちが手掛けています。
 
林: 金森さんはいかがですか?
 
金森香(以下、金森): シアタープロダクツというファッションブランドで、デザイン以外のプロモーションなどのあれやこれやを創業時から手掛けています、金森香です。
 
今回のテーマの「デジタル」や「テクノロジー」というのは、興味はあるけれど、よく分からないという感じなので、ちょっと参加するのが怖かったです。でも、「分からない代表として参加してほしい。」と声を掛けてもらったので、じゃあ大丈夫かなと思って、今日ここに来ました。
 
シアタープロダクツは、表参道に小さな本店を構えて、伊勢丹などの百貨店にも売り場を持っています。粛々と商売を続けてきたファッションブランドで、決して大きな企業ではないのですが、これまでの取り組みでデジタルっぽいモノを少し紹介します。
 
まずは、AR(拡張現実)を使用したファッションショー、「AR-FASHION SHOW.」。
これは、元々演劇繋がりで親交のあった、AR三兄弟というデジタルクリエイターの方々と手掛けたものです。このファッションショーを開催したのが、2011年AWコレクション発表の東日本大震災の年。
元々、ファッションショーのイベント企画をAR三兄弟と一緒にやっていたのですが、震災の影響でショーができなくなってしまったんです。
 
そこで、ファッションショーを中止した代わりに作ったのが、ARでショーが見れる仕組み。電車も止まっていて外出できないような状況だったのですが、一歩も外に出なくても、パソコンがあれば、手元でファッションショーを見ることができる、というプロジェクトに切り替えました。
 
そもそも予定していたものではなかったのですが、当時はARという技術があまり普及していなかったこともあり、珍しがってもらえました。
 

AR-FASHION SHOW_INTRO from ar3bros on Vimeo.

ファッションショーで大事なことは、現場感というか、そこに立ち会っている気持ちになれること。テクノロジーの癖なのか、ちょっと角度を変えると上手く見えなくなってしまったりと、見る人が工夫しないと見れない感じが、図らずもちょうど良かったのではないかと思っています。
 
このプロジェクトをきっかけに、テクノロジーを「便利に使う」というよりは、「魔法の味付け」的に、AR三兄弟とのコラボレーションを何度か実施しました。
 
2011年秋に、ファッションの人たちを集めた「感じる服 考える服:東京ファッションの現在形」という展覧会に参加しました。
そこでは、商品についているバーコードをピッと読み込むと音が鳴るような仕組みを作り、コーディネートごとにリズムと音色で1つのサウンドができるようにしました。
実際のお店ではないけれど、展覧会の会場の中のお店で、そのサウンドが鳴り続ける。これも、AR三兄弟と一緒に手掛けたプロジェクトです。
 
その後、その仕組みを再利用して、「読むお店 SHOP of words THEATRE PRODUCTS」を、新宿伊勢丹解放区で1週間限定オープンしました。「感じる服 考える服」と同じく、バーコードを読み取る仕組みを使ったのですが、今度は音ではなく、「詩」がレシートプリンターから印字されるというもの。
 
ちょうど12月のクリスマスシーズンだったので、例えば、靴下とネックレスとイヤリングを買うと、3つのちょっとシュールなクリスマス関係の詩が隣り合って、不条理なポエムが買い物するたびに生まれる。
限定でプレゼントした、レシートの台紙にもなるクリスマスカードにレシートを挟むと、オリジナルのポエム付きクリスマスカードになる。それを、モデルの満島みなみさんと、AR三兄弟と一緒に実施しました。
 
バーコードというモノに対して、ここから何か不思議なコトが生まれたら楽しいかな、と企画したプロジェクトでした。
 
金森香2
 
●ファッション業界のサイクルが抱える悪循環
林: テクノロジー業界もサイクルがすごく早くて、1年も経つと誰も覚えていないようなところがありますが、実はファッション業界の方が、SS・AWとシーズンがあって、サイクルが早いですよね。
 
金森: 思いついてからカタチにするまでのサイクルがすごく短いですね。今のファッション業界のサイクルだと、すごく急いで、追われるように作らなくちゃならない。それとは違う時間の流れを、日々のモノづくりのルーティンの中に刺しこまないと、テクノロジーによる衣服の開発はできない気がしています。
 
市川: ファッションって、ある程度マーケットに合わせてモノを作らなければいけないという道理が働いていると思います。中長期にわたるプロジェクトをスタートさせて、それに投資をして回収するというサイクルを、ニーズに直結するシーズンやトレンドに結びつけていくことが難しいのではないでしょうか。
 
ただ、若手デザイナーの子たちなんかは、自己資本のみでがんばるスモールビジネス的なやり方でだけでなく、投資をしてもらい、最初からある程度のスケールでブランドを立ち上げて、そこから頑張っていく、というようなスタートアップ的なやり方のブランドが出てきても良いのでは、と思います。
 
林: 最近は、SS・AWのサイクルを崩していこうという流れも少しずつ起きていますよね。例えば、ANREALAGEは、半年ごとではなく、1年を通してのコレクションを発表していました。
 
市川: そうですね。昔に比べて、凝り固まった従来の仕組みの中だけでやろうという人は減ってきたように思います。やりたいことを、どういう手段と方法で実現していくかということを、ブランドがそれぞれ選び始めたという感じはありますね。
 
金森: ひっきりなしに考えては作って、売って…というサイクルを繰り返している限り、ゆっくり何かに取り組むには、別の時間軸を社内に持ち込まないと難しい。
でも、それはできると思っています。自分たちで自分たちの首を絞めているところもあるので、もう少し頭を柔らかくしたら、できることもあるんじゃないかと。それこそ、こういう場がもっと生まれて来たらいいと思います。
 
林: 未来研所長の川島さんは、ずっとファッション業界を見てきていますが、最近のこういう流れはどう感じていますか?
 
川島: ifs未来研究所 所長の川島蓉子です。みなさんの仰る通りで、ファッション業界では、春夏、秋冬というのをシーズンごとに提案して、流行というサイクルを作ることで時代を感じたり、自己表現をするという、そもそもの考えには意味があったと思います。
 
でも、時代はものすごい勢いで変わってきている。
洋服を買うときに、ワンシーズンだけ着よう、と思って買う人はあまりいないと思うんです。買うときには、一生着ようと思って買う。そうは思っても、結局ワンシーズンしか着なかったり、10年着たりというのが買い物の面白さでもあります。
 
お客さまの気持ちと、ファッション業界が抱えている構造に歪みがあることは、今に始まった話ではないと思います。恐らく90年代頃から、この歯車を誰も止められず変えられずここに来ちゃっている。だから、お店もメーカーもデザイナーも、みんな困っているし、元気が出ない。
 
この課題を抱えているのは、ファッション業界だけじゃないと思います。例えば、家電製品だって、本来は毎シーズン買わなくてもいいモノだけど、メーカーは次々に新しい製品を作らないといけない、家電量販店の人は売らないといけないという環境の構造は、誰にとっても幸せではないことです。
 
そうした大きな歪みを転換できるきっかけが、明るく出てきたらいいなと思っています。それを、テクノロジーが手助けしてくれると嬉しいです。
 
●出会いのきっかけを広げる、ファッションレンタル
林: 北川さんはどうですか?
 
北川竜也(以下、北川): 三越伊勢丹ホールディングス IT戦略部の北川竜也です。今のモノづくりやマーケティングに革命を起こそうとしている人たちが周りにたくさんいるので、マイクを回したいと思います。
 
天沼聰さんは、airClosetという、レンタルファッションサービスの創業者です。私が彼に共感しているのは、決してテクノロジーだけでやっているのではなく、ファッション業界そのものを変える一つの位置付けになるという素晴らしい志を持っているところ。天沼さん、今どんなことが見えてきているところですか?
 
天沼聰: airCloset 代表取締役兼CEOの天沼聰です。ファッションレンタルというと、これまではウェディングドレスなどの貸衣装がメインでしたが、我々はレディースの普段着にフォーカスしたファッションレンタルを行っています。

ファッションの好みや悩み、好きな色味や生地感などをオンラインで登録してもらい、その内容を元にスタイリストが服を何点かセレクトして、専用ボックスに入れてご自宅にお届けするという、月額制のサービスです。気に入ったらそのまま購入ができるし、そうでなければ、またボックスに入れて返却すると、次のボックスが届く、という流れです。
 

そもそも、私がこのサービスを始めたきっかけは、多くの洋服との出会いを提供することで、ファッションを自由に楽しむ機会を作りたいと思ったから。
ファッションを自由に楽しむことで、好きな色味や素材を見つけることができたり、第三者であるプロのスタイリストに選んでもらうことで、感動したり、ワクワクする出会いを作れたらいいな、と思っています。
 
今は、手段としてレンタルという形を取っていますが、我々としては、ファッションは自由に楽しむもので、何が似合うかどうかも自分で決めるものなので、たくさん出会う機会を作りたいと思います。
 
airClosetは、2014年2月にスタートしたばかりですが、お客さまの数が増えるにつれて、データや洋服の物量が増えてきているので、洋服の履歴や使用状態など、倉庫の管理についてはテクノロジーを活用しています。
ファッションって、最終的にはアナログな部分が必要なものだと思うのですが、そこに至るまではシステムを入れてテクノロジーの力で効率化を図ろうとしています。
 
林: テクノロジーというと、どうしても新しいビジネスや売り場の新しいディスプレイなどを思い描いてしまいがちですが、airClosetのようなサービスも面白いですね。
 
最近は、Airbnbがテクノロジー業界で注目されていますが、テクノロジーに見えない、アナログを加速化させるようなテクノロジーサービスも増えてきています。airClosetは洋服に特化したサービスですが、ブランドバッグのレンタルサービスなどもありますよね。
 
市川: バッグのレンタル、私も使っています。私の周りにはファッションが好きな女性が多いのですが、私が会う度に違うバッグを持っていると、「また違うバッグを持っている!」と、目線がバッグにいくんですよ。
 
私は、フリーランスになる前にラグジュアリーブランドのバッグを扱う仕事をしていたこともあり、人によっては「レンタルってどうなの?」と怪訝そうな顔をされることもあるのですが、むしろ高級な商材だからこそ、レンタルで試すことができるって魅力的だと思います。何十万円もするバッグを買って、例えば髪が引っかかってしまって使えない、なんてなったら、すごく悲しいじゃないですか。
 
レンタルで実際に使ってみることで、良いところも悪いところも、具体的に分かる。私も、レンタルしたことをきっかけに、実際に買ったバッグもあります。だからレンタルは、購買の最後のひと押しになるサービスでもあると思います。
  
後編に続く

すべての記事を見る

ifs未来研究所について

〒107-0061
東京都港区北青山 2-3-1 CIプラザ2F
未来研サロン WORK WORK SHOP

Tel: 03-3497-3000
Fax: 03-3497-4555

お問い合わせはこちら

Twitter Auto Publish Powered By : XYZScripts.com