未来を試す

第1回 「みらいファッションラボ」イベントレポート 後編

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登壇者:Mistletoe株式会社 代表取締役社長兼CEO 孫泰蔵さん
有限会社シアタープロダクツ 取締役 PRODUCER&PRESS 金森香さん
ファッションコンサルタント 市川渚さん
ITジャーナリスト兼コンサルタント ifs未来研究所外部研究員 林信行さん

 
レポート前編はこちらから
 
★ ★ ★ 
 

●人とのつながりを変える・生み出す仕組み

 
孫: IT業界では、最初に「こういうモノを作りたい」というビジョンがあって、プロダクトよりも先に映像を作るというケースも多いんです。でも、ファッションはモノができてから、これをどうするか考える、ということがほとんど。
だから、ITのように作りたいモノが明確で、先に映像があって、モノづくりは後からというアプローチはすごく新鮮でした。
 
まさに、この「みらいファッションラボ」のように、テクノロジーとファッションが出会える場があるといいと思います。面白いけれど荒削りなテクノロジーを化けさせるために、ITの世界にはベンチャーキャピタルがありますが、それと同様にファッションキャピタルのような仕組みがあるといいですね。
 
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林: ファッションキャピタル、面白いですね。このお話を聞いて、金森さんはどう感じましたか?
 
金森: クラウドファンディングもそうですよね。店頭に出ているモノをそこで買うという、従来のお金とモノの交換ではない仕組み。私が初めてクラウドファンディングを知ったのは、今から5~6年前だったと思いますが、これによって貨幣の交換の仕組みや商いが変わることを実感しました。
一人で経理の仕事をしながら、「なんて素晴らしい!」「未来は、まだまだ捨てたもんじゃない!」と感じたことを思いました。
 
実際に、この4~5年で3つほどクラウドファンディングを使った仕事をしましたが、ユーザーの方とのコミュニケーションの仕方や、生まれてくるプロダクトも変わる、画期的な仕組みだと思っています。
 
また、シアタープロダクツの仕事ではないのですが、12年前に亡くなった音楽家の作品をデジタルアーカイブで残すというプロジェクトに参加しました。クラウドファンディングで呼びかけたことをきっかけに、散り散りになっていた友人たちも集い、オンライン上でコミュニティが生まれました。
 
クラウドファンディングと一言で言っても、お金を集めるだけではなくて、こんな風に人との繋がりも変えるんだな、と。こうした支援の仕組みが、従来の買い物とは違う価値を付与して、素晴らしい体験にしてくれることに感動しました。
 
林: 今日は、クラウドファンディングを運営されている方もお越しくださっています。Makuakeの矢内さん、現在のクラウドファンディングの状況を少しお話し頂けますか?
 
矢内加奈子: クラウドファンディングサービス Makuake(マクアケ)で広報を担当しています、矢内と申します。
今、私が身に付けているアクセサリーや腕時計も、実はMakuakeで購入したもの。これらは、クラウドファンディングに登場する前は、まだ誰も知らないようなブランドだったのが、資金を何百、何千万円と集めたり、銀行から融資が決まったり、店舗への出店が決まったりしています。
 
クラウドファンディングをきっかけに、ブランドが大きくなっていくことが、面白さの一つだと思っています。それから、ユーザーとしても、世の中にはまだ出ていないモノを手に取れるというところが魅力だと思います。
 
オンラインで見ているだけだと、やはり実際にモノに触れてみたいという方の声が多かったのですが、伊勢丹新宿本店2階にブース出店させて頂いたことで、モノに触れて、またオンラインに帰ってくるという連携にも、面白さを感じています。
 
松原徹: 伊勢丹新宿本店でMakuakeを担当している、松原です。先ほどの金森さんのお話にもあったように、リアルな場があることで実際の繋がりが分かりやすくなると思います。
展示をしていると、そのブースに足を運んでくださるんですよね。ご友人やお知り合いの方、支援者の方々が、新宿にある伊勢丹までわざわざ起こしくださる。
 
我々としても、今までそこまでできていなかったという反省もあるのですが、そうした「繋がり」というところが、クラウドファンディングでは大切なのだと思っています。
 
林: それでは、もうお一方、クラウドファンディング型ECサイト「Kibidango(きびだんご)」を運営する、松崎さんにもお話を聞いてみたいと思います。
 
松崎良太: Kibidango 代表取締役の松崎です。クラウドファンディングは、買い物のようで買い物でない、投資のようで投資ではない。その中間にあって、何か物語に参加しているような感じがすると思っています。
 
クラウドファンディングを通して、単にお金を出して「買う」だけではなく、お金を出して「ストーリーの一員」になって、自分自身の体験、モノづくりや、世の中にはまだ無い新しい価値を生み出すことができるようになりました。
 
例えば、ファッションでいうと、Kibidangoではバッグのプロジェクトがとても多い。良いモノを作っても、ロット数や技術力の問題で縫製工場がなかなか見つからなかったブランドも、クラウドファンディングで事前にお金を集めたことで発注できた、というケースもあります。
自分の作りたいモノを作る場所として、クラウドファンディングを使っている個人や中小企業の方々も多いです。
 
また、興味深かったのは、プロジェクト達成1年後に、メーカーと支援者の方々との意見交換会を開催したこと。支援者の中には、ご自身でデザインをしてきた方もいたりして、メーカーの方もビックリ。ユーザーの方に、売り場や展示会でお会いすることはあっても、直接話ができたことは、大きな成果でした。
 
モノが出来上がる前から、想いを持って応援してくれている支援者の方々は、「お客さま」というよりも、「仲間」として、物語に参加してくれているのだと思います。
 
林: クラウドファンディングは、商品に対する資金集めだけではなく、そのコミュニティをも形成するんですね。
 
市川: 最近でこそ、作る過程を見せて、その価値を分かってもらおうとしているファッションブランドもありますが、今までのファッションは、作る過程は隠して、完璧に作り上げた完成品を見せるものだったと思うのです。
 
モノを手にする前から、いかにお客さまを巻き込んで、気持ちを盛り上げるか。ブランドとお客さまの関わり方が変わるような仕組みを広げていけたらと思います。
 
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●テクノロジーと英語で、世界へ。

 
林: 前回の北川さんのお話にもあったように、画期的なテクノロジーを一社で独占するのではなく、オープンなものにしていきたいですね。まさにそういうことをするのが、この「みらいファッションラボ」。ライバルの壁を超えて、様々なディスカッションができたらいいな、と思っています。
 
市川: 私が、デジタルがファッションと組み合わさることで良くなるだろうと可能性を感じているのは、「世界は開けているんだ」という感覚を持てるようになること。テクノロジーや新しい仕組みを使うことで、もっと自由に不特定多数の人たちとコミュニケーションがとれるようになります。
 
今までのやり方では成長できないと独立系のファッションデザイナーから相談を受けることも多いのですが、初心者の方でも簡単に使うことができるウェブサービスなども豊富なので、そうしたことを細かく伝えていくことも重要だと感じています。
 
孫: ITベンチャー企業を見ていると、最初からグローバルに販売するつもりで進めていることが多いですね。僕らも、ずっと「まず日本で成功してから海外へ、という発想をやめなさい。」「何でも英語で作りなさい。」と言っていました。
多くの人は「英語は苦手なんです。」と言うんだけれど、苦手だからこそいいんです。
 
英語は日本人にとって母国語ではないので、あまり小難しい言い回しができず、シンプルな英語になる。そうすると、分かりやすくて伝わるんです。
逆に、日本語だと説明をしすぎてしまうんですよね。その上、日本人同士だと阿吽の呼吸で、アイコンタクトでも分かり合える。
だから、最初から海外に発信することをした方が、結果的にデザインもプロダクトも良くなります。
 
林: 海外と日本の反響は、どのような違いがありますか?
 
孫: モノにもよりますが、数字で見ると、日本の市場規模は全体の半分以下で、半分以上を超えることはないです。1位がアメリカの場合もあれば、均等に分かれて海外が60%ということもある。
 
林: それは、言葉の壁によるものでしょうか?
 
孫: そうですね。その壁を越えれば、市場が広がる可能性はあると思います。ある程度のプロダクトは、100,000台を作ることができれば損益分岐点を越えます。モノによっては、10,000台から50,000台でも。
それを、日本だけでやろうとするとすごく大変ですが、世界各国から数千人という単位でユーザーが集まると、それを超えることができるんです。
 
「こういうモノを作りたい!」「こうなりたい!」と、プロダクトのレベルもだんだん上がってきていますし、そういう時代が来ようとしている。
 
林: 僕は、以前はITジャーナリストとしての執筆業を主としていましたが、アメリカの雑誌に英語で記事を書いたことで、その後の原稿料が1桁2桁変わる、ということを経験しました。
やはり、英語の記事は世界中の人が読むので、日本語で書いている記事とは、読者の母数がそもそも全然違う。ファッション業界も、まさに言葉を越えた業界だからチャンスですよね。
 
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孫: ファッション業界の方もITの感覚で、まず映像を作って、世界に発信することをもっともっとやるといいと思います。日本のカルチャーやファッションは、私たちが思っている以上に、みんなカッコいいと思っていますから。
 

●AI(人工知能)との関わり方の未来

 
林: 人工知能を活用したチャットで、服を提案してくれるSENSY(センシー)などもありますが、孫さんから見た人工知能の面白さってどんなところですか?
 

 
孫: 人工知能のディープラーニングは、まるで子どもを育てているような感覚なんですよ。やってみてもダメなときは、「教え方が悪かったのか」、「なんでこんなにバカなんだろう」と思うことも。
教え方を変えてみると、前より少し賢くなったけど、他にここもダメだとか、トライアンドエラーの繰り返し。常に教え方を考え続けないといけません。
 
人間がこれまでやってきたこと全てをAI(人工知能)に置き換えるのではなく、「自分はやりたいことがあるけれど、手が回らない」というときにAIにサポートさせるという、補佐役のような立場でクリエイティブな世界に関わらせるといいと思っています。
 
例えば、AIにデザインや色をやらせてみたら、「なんで、これ?!」という面白いモノを提案してくれるかなと。AIを使っていく方法論を考えていきたいです。
 
金森: AIの活用なんて考えたこともなかったですけれど、今の孫さんのお話を聞いていて、なるほどと思いました。人間がいなくなるとか、人の考えがいらなくなるとか言われると、やっぱり抵抗がある。
でもそうではなくて、補佐をしてもらうという使い方なら関わってみたいです。育て方を考えながら自分も成長したり、人間には提案できない意外なデザインや色使い、斬新な間違いをしてくれるのが面白そう。
 
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孫: テクノロジーは、振り子のようなところがあるな、と思っているんです。
最近、以前と比べてEメールってあまり使っていない方も多いんじゃないでしょうか? 僕の周りでは、仕事のやり取りもみんなチャットです。
 
既に、SiriやAmazon Echoなどもありますが、これからは「声」の時代になると思います。例えば、Amazon Echoで「音楽をかけて」と指示をして、音楽を聴きながら、タイマーをかけてカップラーメンを作っているとします。
その間に電話が掛かってきて、「ちょっと止めて」と声をかけると、止めるのはタイマーではなくて、音楽の方だときちんと理解する。それぞれアプリを立ち上げてセットするのは、面倒じゃないですか。
 
グラフィック表現の全盛期が1シーズン巡って、今はテキストの時代ですが、こうして様々な形で振り子になっているんです。そういう意味では、何年か後にはスマートフォンもなくなっているかもしれない、と思っています。
今スマートフォンでコントロールしているようなことが、音声でできるようになる。僕は、2025年後にスマートフォンを使っているというイメージは湧かないです。
 
林: 僕も、いちいちメッセージアプリを立ち上げてメッセージを送るというよりも、Siriに向かって言う方が簡単だと感じていました。今後は、どんどん声を使うモノが増えていって、「声」の時代が確実にやってくると思います。
 

●いかにして、ファッションとテクノロジーは融合できるか

 
林: 今回のトークは、前回と比較してテクノロジーに関する話題も多かったですが、市川さん、どう感じましたか?
 
市川: ファッションとテクノロジーが溶け合うためには、テクノロジーがファッションにもう少し歩み寄ってあげる必要があるんだと思います。
 
雑誌『装苑』で、「アートとテキスタイル」を特集した2017年1月号の中で、「テキスタイルの近未来」という記事を執筆、監修しました。
テクノロジーを駆使した新たな素材などをまとめて紹介して、どういう未来が待っているのかという現状のお話を編集の方としていた時、「どれも新しくて面白そうだし、何かに役立ちそうなのも分かる。でも、私たちが日常で着たいと思う服にどう落とし込まれるのかが、全く想像つかない。」と言われたんです。
ファッション側の視点から見ると、そういう感覚なんですよね。
 
孫さんからお話があった映像を作るときにも、もっとファッションのコンテンツを模したような内容にするなど、わかりやすさを付与することで、少しずつ理解を深めていけるといいなと感じています。
 
林: 金森さんは、今日のイベントに参加することが怖いと言っていましたが、ファッションとテクノロジーは、どうすれば上手く融合できると思いますか?
 
金森: このイベントは、思っていたよりも怖くなかった(笑)。
でも、これを持って帰って、会社の中で何ができるかというと、まだまだ道のりは遠くて。元々、一昼夜にして変わるということではないですが、テクノロジーは、じわじわと私たちの仕事を変えてきています。
 
なので、思い込みすぎずに取り入れて、面白がってみるといいのではないでしょうか。それを突破口に、企画を考えたりする姿勢が変わっていく気もしています。
 
林: 孫さんはいかがですか?
 
孫: ITベンチャー企業の人の中にも、アート系の学校を卒業していたり、ファッションやアートのコンテクストを理解している人たちもいます。
例えば、毎年アメリカのテキサス州で開催される音楽や映画を組み合わせた最先端のイベント、South by Southwest(SXSW)がカッコいいからと、IT企業が新商品発表の場に選んだり、インタラクティブに成長してきました。
 
日本でも、ファッションとテクノロジーのカッコいい人たちが集まる場や、イベントを通じたコミュニティを作ることができると、可能性が広がるかもしれない。このみらいファッションラボが、そうしたコミュニティのハブになるといいですね。
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