未来を試す

第3回 「みらいファッションラボ」イベントレポート 後編

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登壇者:資生堂 イノベーションデザインラボ 山崎賢さん
三越伊勢丹ホールディングス 情報戦略本部 北川竜也さん
ITジャーナリスト兼コンサルタント ifs未来研究所外部研究員 林信行さん

 
レポート前編はこちらから
 
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山崎賢(以下、山崎): こんにちは。資生堂のイノベーションデザインラボという変わった名前の部署に所属している、山崎賢です。この部署は、今年1月に立ち上がったばかりで、新規事業のデザインなどを行っています。
 
今年、僕たちが出展したSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)は、年に一度、アメリカ・テキサス州のオースティンで開催されるイベントです。SXSWは、1987年に開始されたので、今年でちょうど30年。ミュージックから始まったこのイベントは、次にフィルム、そしてインタラクティブと、カテゴリがどんどん増えて進化をしています。
 
それに伴って、当初はミュージシャンが中心だった参加者も、今ではテクノロジーの技術者も参加するなど、本当にちゃんぽん状態。約7万~8万人が参加し、経済効果は約200億円。みんなSXSWに掛ける意気込みがすごく、街も人で溢れかえって、フェスティバル状態になっています。
 

 
今回、資生堂で参加したインタラクティブのカテゴリの中では、過去にTwitterやAirbnb、Pinterestなどがアワードを受賞しました。そうした過去の受賞者たちの功績もあり、SXSWはますます有名になりつつあります。
 
今回は、どんな新しいモノが出てくるのかなと会場を見回すと、CESと同じく、VRとARが本当に多かったです。これらに関わるコンテンツが、会場の約6割を占めていて、ちょっと気持ち悪いくらい。
 
北川竜也(以下、北川): なんか熱病みたいに、みんな「VR、VR」って言ってますよね。
 
山崎: そうなんですよね。2017年はVRとARが一般化する元年だと言われていたりもしますが、確かにコンテンツがどんどん多彩になってきている気がします。『マトリックス』の世界が現実になるんじゃないか、という予感もしています。
 
SXSWで展示されていたVR・ARの中で、僕が着目したモノを2つ紹介します。1つは、Facebookが展示していた、VRの撮影ツール。これを装着すると、自分の空間を他者とシェアできるようになり、疑似体験がより身近になります。
 
旅やフェスなども安全に疑似体験ができることになるので、旅行業界やエンターテイメント業界、出版業界と競合する可能性があるな、と思いながら見ていたのですが、こうした技術から新しいビジネスが生まれる可能性も感じました。
 
もう1つは、VR・AR×ウェアラブル。誰もが思いつきやすいモノかとも思うのですが、実際これが普及してしまうと、僕たちのような化粧品業界は大変だと思います。
映像を変換して見ることができるので、例えば、ゴミが落ちている様子を消去した世界や、美しい人だけしか見えない世界など、自分が見たい世界だけを見ることができる。
 
化粧品やファッションが不要になって、みんな見た目に気を使わずに出歩く時代が来てしまうかもしれない。この辺りも、引き続き動向を追っていきたいと思います。
 
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また、今回は、自分で見えない自分の状態、例えば、脳や腸の状態を知ることができるツールも多かったです。過去のSXSWを振り返ると、ここからメジャーになったモノの多くは「シェアするモノ」で、人と繋がったりするモノが流行るという流れだったのが、今回は「個人プレイ」が主流。ゴーグルを着けてVRをやっていたり、自分の内側を見たりしている姿を、すごく不思議に感じました。
 
そうした中でも印象的だったのが、日本のブース。このブースでは、エンターテイメント性の高い展示物が多く、大勢の人で賑わっていて、国別に展示を行うコンベンションセンターの中で一番人が集まっていたのは、日本のブースでした。全体が個人化、引きこもり化している中で、日本ブースは明るいなあ、という印象を受けました。
 
林信行(以下、林): それでは、私からは「ミラノサローネ」についてお話をします。CESもSXSWもそうですが、この規模のイベントになると、例え会期中ずっと滞在していても、全てを見るということはできません。
 
ミラノサローネは、1961年から続く、非常に歴史のあるイベントです。ミラノサローネというのは通称で、「ミラノ国際家具見本市(Salone del Mobile.Milano)」のことを指します。
 
サローネでは、オフィス家具の展示会「サローネウフィーチョ(Salone Ufficio)」、バスとトイレの展示会「サローネバーニョ(Salone Bagno)」、照明機器関係のイベント「エウロウーチェ(Euroluce)」などが併催され、これらを総称して、「複数の見本市」を意味する、「イ・サローニ(i Saloni)」と呼ばれています。しかも、どれも世界最大規模。それだけの規模のデザインイベントがミラノに集結するという、スーパーイベントなんです。
 
ミラノの街全体でも多くのデザインイベントが行われており、「フオリサローネ(Fuori Salone)」、つまり「場外サローネ」もあります。デザインイベントが、ミラノ中で同時多発的に起きている状態で、「トルトーナデザインウィーク」会場のトルトーナ地区の地図を見ても、地図の端まで溢れんばかりの数の展示会が開催されています。
 
Milano Salone
 
実は、ミラノサローネは、昔から日本人が大活躍しているイベント。そこかしこで日本語を耳にして、会場に向かう満員電車では「半蔵門線の中みたいだね」という言葉も聞こえてきました(笑)。
 
CESやSXSWもそうだろうけれど、「日本人は、日本の中では活躍しないのに、海外ではこんなにも活躍するのか!」と、驚かされます。
 
ミラノサローネは、あまりにも規模が大きすぎて、見る人によって視点が全く異なってしまうのですが、今回、僕が中でも感動したのが、「伝統工芸を活かして、家電の新しいカタチを見せる」というモノでした。
 
伝統工芸の技術を伝承したい、応援したいと、様々なカタチの取り組みはあるものの、なかなか上手く広がっていかない。一方、量販店に並んでいるプラスチックの家電製品を見ても、心はあまりウキウキしない。
 
それに対して、一石を投じてくれたのが、日本企業のPanasonic。世界で唯一無二のクラフツマンシップと、先端テクノロジーを融合させる、
「GO ON × Panasonic Design」プロジェクトです。伝統工芸と家電の美しいマリアージュが見事に表現されていて、今回のミラノサローネで一番感激しました。
 
今日は、それらを手掛けたPanasonicの方もお越しくださっているので、ぜひお話を聞かせてください。
 

ミラノサローネ2017 パナソニックのインスタレーション ハイライト from Panasonic Newsroom on Vimeo.

 
脇田 郁子(以下、脇田): Panasonic アプライアンス社 デザインセンターの脇田です。
今回、弊社と組んだのは、京都で伝統工芸を受け継ぐ若旦那衆による、「GO ON(ゴオン)」というクリエイティブユニット。
 
彼らはそれぞれ経営者でありながら、自分たちの技術や素材を国内外の企業・クリエイターに提供することで、新しいモノを生み出すというミッションを持って、活動しています。
 
Panasonicも、家電の未来を考えていく中で、「Panasonicは日本のメーカーなので、日本の美意識や文化を、もう少し掘り下げたい」という想いでプロジェクトを立ち上げ、「GO ON」とのご縁を得て、一緒に取り組むことになりました。
 
「生活の中で、暮らしを豊かにするとはどういうことだろう?」と考えたときに、「昔は、生活用品として1つだったモノも、今は家電と伝統に分かれた。じゃあ、それがもう一度融合するとどうなるのか」と考えたことで生まれたのが、今回のテーマである、「Electronics Meets Crafts」です。
 
極力、テクノロジーという技術は見せずに、伝統工芸の素材を活かし、人の五感や記憶に響く体験を伝えたいという想いを持って取り組んでいます。今回は、茶筒で知られる開化堂とのコラボレーションによって生まれた、「響筒 kyo-zutsu」をお持ちしました。
 
KyoZutsu_Panasonic
 
林: ぜひ、音を聴かせて頂けますか?
 
脇田: 「掌で音を感じ、表情を愉しむコンパクトスピーカー」として、音を掌でも感じて頂こうというコンセプトで作りました。茶筒の蓋を閉めると、蓋の動きと共に、スーッと音も消えていく。音の良さを追求するという技術もありますが、オルゴールの蓋を開閉するような音の体験も、これからの豊かさの一つかな、と思います。
 
林: ミラノサローネでは、とてもステキな展示をされていたので、お持ち頂くのは難しいかな、と思っていました。ありがとうございます。
それでは、続いて、ワン・トゥー・テンの丸山さん、お願いします。
 
丸山研司(以下、丸山): ワン・トゥー・テン・デザイン チーフプロデューサーの丸山研司です。
 
キム: 博報堂のプロダクト・イノベーション・チーム monom(モノム)のテクノロジーリサーチャーのキムと申します。monomでは、洋服の襟に付ける小型マイクデバイスの「ELI(エリ)」を、クリエイティブスタジオであるワン・トゥー・テンと共同開発しました。今年のSXSWのトレードショーの博報堂ブースにて、初めてELIの展示とデモンストレーションも行ないました。
 
丸山: 英語を学ぼうと思ったとき、何から勉強したらいいのか分からないと感じたり、一般的な教材で、あまり身近に感じられない例文や単語を学ぶことで難しさを感じるという課題があります。
 
ELIは、普段話している日本を記録・解析し、最適な英会話レッスンを生成する、小型マイクデバイス及びスマホアプリです。仕事内容や興味関心の領域から、自分らしい言い方や伝え方を活かした英会話を学ぶことができます。
 
まだプロトタイプの段階なので、来年や再来年くらいには商品化することを目指し、博報堂と弊社で開発を進めているところです。
 

 
林: SXSWに出展してみて、会場の反応はどうでしたか?
 
丸山: すごく反応がいい。本来のELIは、日本語から英語教材を生成するモノですが、SXSWは海外のお客様が多いので、日本語ではなく、英語からスペイン語教材を生成するモノを展示したんです。
 
「これはすごいイノベーションだ!」という声を多く頂いていたのですが、SXSWの会場であるテキサスは、メキシコが近いということもあり、「スペイン語はもう話せるし」という方々が意外といました(笑)。
 
来場者の方々は様々な国から来ているので、ELIに直接触ってもらって、その反応を直に見ることができたことが、何よりいい経験だったと思います。
 
林: では、今年のSXSWに出展された、GROOVEの小宮さん。
 
小宮慎之介: GROOVEを制作した、小宮慎之介です。僕がダンスを踊る中で、感じた課題をきっかけに、手袋型のデバイス「GROOVE」を作りました。僕が学部4年生の卒業制作で作ったことをきっかけに、今はメンバーと共に制作を続けています。
 

 
GROOVEは、単なる光る手袋だと思われがちですが、実際には、ダンサーの動きに合わせた効果音を出したり、光や色を変えたりすることができるモノです。
 
GROOVEを使うことで、これまでは映像や音楽に合わせて踊ることが基本だったダンスが、ダンサーを主体にしたものになります。つまり、インタラクティブに音楽や映像、照明を変えるなど、DJやVJ、照明担当がいなくとも、ダンサー自身でパフォーマンスを演出することができるようになるのです。
 
GROOVEは、指に「曲げセンサー」、掌に「圧力センサー」、手の甲に「加速度センサー」、そして約100個のLEDが入っています。また、Bluetoothを搭載しているので、GROOVEからスマートフォンにデータを飛ばすことで、音楽や映像を流すこともできます。
 
以前は、配線むき出しの状態だったモノを、今はフレキシブル基盤にしているのですが、壊れては修理…を繰り返している状態のため、改良改善を進めているところです。
 
SXSWに出展した際は、会場自体がお祭り騒ぎということも相まって、「それ(GROOVE)は何だ?」「ちょっと、やってみせて!」と声を掛けられ、周りのみんなも一緒に踊り出すような状態になりました。
 
特に、光が目立つ夜にGROOVEを持って街を歩いていると、ちょっとしたヒーロー。出展ブースでも、「GROOVEを着けて踊ってみたい!」と声を掛けられることが多く、アメリカと日本の反応の違いも実感しました。
 
groove
 
今後は、LEDデザイン、プロダクトデザインをブラッシュアップし、ダンサーだけでなく、「ファッションとして、着けていたくなる手袋」にしていきたいと思っています。
 
林: 同じく、SXSWに出展された資生堂の花原さん、お願いします。
 
花原正基: 資生堂の花原正基と申します。SWSXでは、2つのプロダクトを出展しました。
ひとつは、「TeleBeauty(テレビューティー)」という、自動メイクアプリです。オンライン会議などで通信中の画面に表示される顔に、デジタル処理でメイクや顔色補正を行うことができます。資生堂のメイクシミュレーション技術や、所属アーティストが持つ技術を活かして開発をしました。
 
もうひとつは、スマートアロマディフューザー「BliScent(ブリセント)」。これは、スマートフォンで人の心の状態を測定し、気分にぴったりの香りを3,000種以上の中から調香するものです。フィードバックをすることで、使う人の嗜好を学び、好みや気分に合う香りを調香できるよう、実装していきたいと思っています。
 
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林: 前半でイベントの紹介をする中で、「日本でもこういう大きなイベントが欲しいよね」と話しましたが、一石を投じるイベントを立ち上げた青木さんがいらしていますので、イベントの紹介をお願いします。
 
青木昭夫: 「DESIGNART(デザイナート)」発起人の、MIRU DESIGN 青木昭夫です。DESIGNARTは、「感動のある暮らしを、一般の方々にも伝えたい」という想いで始めたデザインフェスティバルです。名前の通り、デザインとアートを横断する感動を与えるモノを、世の中にもっと伝えていくことが必要なのではないか、と。
 
今の時代、手軽な価格でそれなりのモノが増えてきていますが、それに本当に感動するかと言われると、首を傾げてしまうようなモノも多い。そんな中で、機能と美を兼ね備え、感動を与えてくれるモノが日々身近にある喜びを伝えていくことで、デザインとアートを産業化したいと思っています。
 
DESIHNART_logo
 
そのため、多くの方々がそれらと直接触れ合うことができ、更には購買力を引き出す場として、今秋「DESIGNART 2017」を開催します。10月16日(月)から22日(日)の1週間、東京(表参道・原宿・渋谷・代官山・六本木)をメイン会場に、ファッションブティックやギャラリー、インテリアショップなど50箇所以上を巻き込み、アートやデザインが街中に点在している、という状況を作りたいと思います。
 
そして、DESIGNARTのイベントでは、「プライスを付ける」というルールを設けます。これによって、受け手側に「このくらいのプライスで買えるんだ」と、意識をしてもらうためです。最高限度額800万円、最高120回払いの、スルガ銀行の「インテリアローン」と組み、無理なく購入する方法も提案していきます。
 
銀行がこうしたローンを手掛けていることもあまり知られていないので、「車では当たり前のローンが、なぜ家具やアートには使えないんだ?」という疑問に対する答えを伝えることで、多くの人にとって感動を与えるモノを、手に入れやすくなる環境を作りたいと思っています。
 
林: 今回は欲張りすぎて、最後はまとめようがないイベントになりましたが、楽しんで頂けたら嬉しいです。北川さん、いかがでしたか?
 
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北川: 興味深いのは、SXSWを化粧品メーカーの資生堂、ミラノサローネをITジャーナリストの林さん、CESを百貨店の三越伊勢丹ホールディングスが紹介していること。
 
CESやSXSWを林さん、ミラノサローネを三越伊勢丹が紹介するのが、普通の組み合わせだと思うけれど、それが入れ替わっている。これは時代を表していて、面白いと思います。
 
林: ありがとうございました。

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