未来を試す

第4回 「みらいファッションラボ」イベントレポート 前編

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登壇者:前 株式会社ケイズデザインラボ・現 株式会社DiGINEL 代表 原雄司さん
ファッションデザイナー 天津憂さん
ITジャーナリスト兼コンサルタント ifs未来研究所外部研究員 林信行さん
*肩書は登壇時のものを記載しております。

2017年6月21日(水)、三越伊勢丹ホールディングスと資生堂、ifs未来研究所が共に運営する「みらいファッションラボ」(以下、ラボ)の第4イベントを開催しました。「ラボ」のテーマは、「デジタルは、ファッションを幸福にできるか。」。
今回は、「3Dテクノロジーが切り開く、ファッションとコスメの新境地」と題し、3Dプリンティングと中心としたデジタルテクノロジーとファッション、ビューティーの最前線を語り合いました。

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林信行(以下、林): ifs未来研究所 外部研究員の林信行です。未来研の自主研究の1つとして行っている「みらいファッションラボ」など、外部研究員として様々なプロジェクトに携わっています。
 
「ファッションテック」とは一言で言っても、ファッションとテクノロジーの融合は、様々なカタチで行われています。6月8日、Googleの「Google Arts & Culture」から、ファッションをテーマにした「We Wear Culture」が公開されました。
 
また、Apple Watchに代表されるウェアラブルは、スマートフォンと連動させ、電子ペーパーで出来た時計の文字盤やバンドのデザインを変えることができる、FES Watchという新しいマテリアルも発売になりました。一方では、店頭で試着した服を、どちらが似合うか見比べることができる姿見が出てきたりと、様々な分野で、ファッションとテクノロジーの融合が起きています。
 
私は、長年、テクノロジー業界を見てきましたが、テクノロジーありきのプロダクトが非常に多い。それでは、ファッションのようにウキウキした気分にはならないのではないか、という問題意識を持っていました。
そこで、テクノロジー主導ではなく、「ステキさ主導」のファッション革命・ライフスタイル革命を起こしたいと、三越伊勢丹ホールディングス、資生堂、そして私も外部研究員として活動している、ifs未来研究所の共同研究プロジェクトとして、この「みらいファッションラボ」を立ち上げました。
 
「みらいファッションラボ」の合言葉は、「ファッションって、恋。」。「恋」というワードが挙がったのも、きっとファッション業界ならでは。そのくらい、ドキドキするような気持ちで研究を進めていきたいという、ラボメンバーの想いが込められています。
 
そして、もう一つ、私の好きな言葉を紹介します。
『アートがテクノロジーに挑戦し、テクノロジーはアートにインスピレーションを与える。(The art challenges the technology, and the technology inspires the art.)』
これは、アニメーション会社ピクサーの創業者である、ジョン・ラセター氏の座右の銘です。今、ファッションテックの世界で起きていることも、ジョン氏の言葉のようになることで、きっとステキな発展を遂げるのではないかな、と思います。
 
つまり、ファッション業界の人たちが、「もっと、こんなことができるテクノロジーは無いか?」という挑戦状を叩きつけ、テクノロジー業界の人たちが「こんなことができるよ」と提示することで、ファッション業界の人たちがインスピレーションを受ける。そんな関係を目指しています。
 
今回のテーマは、「3Dテクノロジーが開く、ファッションとコスメの新境地」。
3Dプリンターを使用することで、これまでには無かった新しい造形のファッションが生まれつつありますが、実は、3Dテクノロジーとファッションには、もっと広い可能性があるということを知って頂きたいと思います。
 
ゲストには、「3Dプリンターと言えば、この方!」、ケイズデザインラボの原雄司さんと、実際に3Dテクノロジーを活用したファッションアイテムを手掛ける、ファッションデザイナーの天津憂さんをお迎えし、お話を伺いたいと思います。
 
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原 雄司(以下、原): 「アナログとデジタルの融合で世界を変える」をミッションに、3Dデジタル技術を活用した研究開発を行うテクノロジスト集団、株式会社ケイズデザインラボの原(※2017年7月15日をもって退任。現在は株式会社DiGINELの代表を務める。)と申します。
 
これまで、3Dデジタル技術を活用して工作機械を動かす、CAD/CAMソフトの開発に長く携わってきたのですが、設計者でもあり、ソフトの開発者でもあり、それらを販売する提供者でもあるという、3つの立場で3Dに関わっています。
 
僕が考える3Dは、コミュニケーションツール。アーティストやクリエイターの方と話していると、擬音で表現されることが多いんですが、何を言いたいのかが分からないし、理系寄りの僕は、数値で言って欲しい、と思ってしまう(笑)。
 
そこで、クリエイターとテクノロジストのコミュニケーションを橋渡しできるのが、3Dデータなんじゃないかな、と思っています。3Dプリンターでモノを作ることができるので、その上で話した方が早い。今後、3Dデータは、コミュニケーションツールとしても、どんどん必要になると思います。
 
実は、3Dプリンターは1980年代に日本人によって発明されたもの。それでも、日本では、3Dデータの活用が遅れていたために、あまり注目されていませんでした。
ですが、2012~2014年頃、「個人でもメーカーになることができる」と、大ブーム。レーザーカッターやスキャナーなど、かつては高額で企業などでしか買うことができなかったモノが、近年は個人でも購入できる価格になったこともあり、話題になりました。
 
ケイズデザインラボは、「3D関連で困ったときの駆け込み寺」のようなカタチでスタートした、元々はR&Dの会社です。その中で、3Dの開発やデザインも手掛けているのですが、クライアントは、企業や工場、学校、アーティスト、クリエイターなど幅広い。最近では、スタートアップからの相談も多いです。
「こんなふうに作れないか」という相談を受けたモノを、表面の凹凸や触感を3Dデータで表現して、3Dプリンティングしたり、金型データを作ったりしています。
 
自分の身体をスキャンしてフィギュアを作ることが流行りましたが、そのハシリを作ったのは、我々です。2012年には、スウェーデンのの3Dスキャナーメーカーとの共同開発で、6秒間で人体を0.1mm以内の誤差で測定することができる、国内唯一の高精細人体3D測定装置「BodyScan」を開発しました。
 
実は、このBodyScanで最初に測定したアーティストはPerfumeなのですが、エンターテインメントだけでなく、オリンピックに出場した選手の姿勢の測定や、ウェアの開発など、スポーツ科学や医療にも活用されています。
 
また、最近では、株式会社ミチの、3Dプリント技術を活用したカスタムフィットネイルチップサービス「オープンネイル」のお手伝いをしました。
実はジェルネイルって、仕事の関係やアレルギーでできないなど、様々な課題もあるんですよね。シールではすぐに剥がれてしまうし、市販のネイルチップは自分の爪に合わない。
 
そこで、店頭で爪の形状を3Dスキャン登録することで、インターネットで好みのネイルチップが発注できる、という新しいシステムを開発しました。
株式会社東芝の画像処理技術を使い、生体的にできるだけ問題の無い材料で3Dプリントをして、ぴったりフィットするネイルチップを作る、というサービスです。
5月には、渋谷ヒカリエShinQsで実証実験を行なったのですが、大好評。我々は、実質的な検証や支援しかしていないのですが、非常に可能性を感じたプロジェクトです。
 
私としても、これからはテクノロジーファーストではない、ストーリー性のあるサービスやプロダクトを、3Dの技術を活用して支援していく、ということをもっと手掛けていきたいと思っています。
 
林: 原さん、ありがとうございました。3Dプリンターは、珊瑚礁の復元にも使用されたりと、21世紀の基礎の技術にもなりつつありますね。可能性をものすごく感じます。
続いて、実際に3Dプリンターを使ったファッションアイテムを生み出した、天津憂さんにお話を伺います。
 
天津憂(以下、天津): ファッションデザイナーの天津憂です。まだまだファッション業界はアナログなのですが、僕は2010年頃から、テクノロジーを掛け合わせながら表現をしてきました。
 
僕は、ニューヨーク滞在中に、A DEGREE FAHRENHEIT(エーディグリーファーレンハイト)というブランドを立ち上げ、2010年に帰国しました。東京コレクションで発表をしたのですが、「洋服はアナログで作るけれど、そのアウトプットや表現方法にデジタルを組み合わせることで、もっと違う角度で伝えられるのではないか」と思い、どんどんテクノロジーに入っていった、というのが、これまでの経緯です。
 
A DEGREE FAHRENHEITは、ブランド名の通り「温度」をテーマにしたブランド。温度に関係するテーマに沿って、デジタルを使ってきました。
 
例えば、2013SSコレクションでは、Dyson(ダイソン)に協力してもらいました。コレクションテーマの「ガラスの融点」を表現するために、風によって優美な流れを作りたかったんです。でも、プロペラが視界に入ることは意図では無かったので、Dysonの羽のない扇風機をお借りして、置いてあるだけなのに、風が出ているという状態にしました。
 
そして、僕がジレンマを感じていたのは、ファッションショーをスマートフォン越しに見る人が増えたこと。近年のSNSの発達もあり、いち早くアップしたいという想いからだとは思うのですが、その写真のクオリティがものすごく低いんです。
距離があるところから撮影していたりするのですが、彼女たちが伝えたいのは「こういうファッションショーを見ています」ということ。それを、もっと良いクオリティの写真で伝えてもらいたいと、サイネージに映ったショーの写真を、スマートフォンにダウンロードできる仕組みを使ったりしました。
 
また、2014年からは、Hanae Mori manuscrit(ハナエモリ・マニュスクリ)のデザイナーも務めています。みなさんご存知のように、森英恵さんは、オートクチュールの第一人者。その森さんの名前を冠したブランドでどういうことができるかを考えたとき、A DEGREE FAHRENHEITでは、デジタルを全面に出していましたが、Hanae Moriでは、伝統工芸もやっていきたいと思いました。
 
僕なりの表現方法は、まずはアナログから入り、その上でデジタル技術を使う、ということでした。Hanae Moriのアイコンである蝶や花を表現するために、高解像度スキャナーでスキャニングして、プリントに生かしています。
 
そして、Hanae Moriが持つオートクチュールのアイデンティティを活かし、デジタルファッション株式会社のサポートで、「DIGITAL COUTURE HANAE MORI×DIGITAL FASHION LTD.」というアプリを作りました。
 
これは、好きなテキスタイルデザインや素材を選んで、サイズや色を変えて、自分でカスタマイズしてオーダーができる、というもの。2015年の「FASHION’S NIGHT OUT」で発表したときには、モデルの水原佑果さんが、自分でカスタマイズした服を着てくれました。
テキスタイルの柄は、きちんと奥行きまで表現できているので、大きさを変えることもできますし、歩いたときの揺れ方など、動きを表現することもできます。
 
また、ケイズデザインラボにサポートしてもらい、3Dプリンターを活用したヘッドドレス「A01 ver. Head Dress」を作りました。Hanae Moriでウェディングを表現するときには、ヴェールが一番よく使われるのですが、僕は、あまりクラシックスタイルにならない、ヘッドドレスを作りたいという想いがあったんです。
 
アナログでは、フェルトを熱で構成して立体に作ったモノを、レザーで一体にしたりと、ファブリックを縫い合わせることで立体的に作るという方法があります。そこから次のステップに進めたいと思っていたので、複雑なレースを、3Dプリンターでどれだけ表現できるかな、ということを考えて取り組みました。
 
テクノロジーは、実際にファッションに落とし込むとアナログ化してしまうんですが、表現する際のツールの1つとして、新しい使い方をしてみたいと思っています。
 
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レポート後編に続く>

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