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【うろうろアリでいこう!】Story13 「組織の三大アリ地獄」その3

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うろうろアリの行く手を阻む、
組織の三大アリ地獄(Pitfalls)。
 
「完璧主義地獄(Perfectionism)」
「役割仮面地獄(Persona Crisis)」
に続く3つ目の地獄は、
「短期成果地獄(Profit over Purpose)」
です。
 
僕は、アメリカの経営大学院を拠点にして、
グローバル企業や国際NGOと共に、
貧困や環境など社会的課題を
ビジネスの力で解決することを目指す
様々なプロジェクトに関わっています。
 
その中のひとつ、ヨーロッパに本社を置く、
あるグローバル企業のプロジェクトで実際に
起きた出来事です。
 
その企業は、世界中の拠点から
新しいビジネスのアイデアを募集し、
最終的に選び抜かれた3つが新規事業の
実現に向けて動きだすことになりました。
それぞれのビジネスプロトタイプの開発に
5000万円〜1億円の費用が割り当てられ、
僕はビジネスコーチのひとりとして、
そのなかのひとつ、香港支社が発案した
教育プロジェクトに参画していました。
 
この教育プロジェクトは、中国の
地方都市における教育格差に取り組むもの。
このソリューションが実現されれば、
たとえ親の貧困により十分な教育が
受けにくい子供たちでも、等しく、
未来に通用する学びを身につけることが
できるというものでした。
 
新規の事業や研究開発を表す言葉に、
スカンク・ワークスというものがあります。
既存の組織・機能体系とは別に、
志を共有する有志の元で、
殆ど誰にも知られていない状態で進む
プロジェクトのことです。
なんだか臭ってきそうなこの言葉、
米国の航空機メーカー・ロッキードで
秘密裏に進行した新型戦闘機開発ラボの
愛称から来ています。
 
この香港支社のプロジェクトも、初期段階は、
まさにこのスカンク・ワークスでした。
強い目的意識を持つ有志が、
既存事業の枠にとらわれずに、
社会におけるインパクトや存在意義を第一に、
独創性と熱意を駆使して進めていたのです。
 
ところが、このプロジェクトが
グローバル選考に残って開発予算があてられ、
事業化が現実のものとなってきた途端、
中国市場の経営層は、「これはチャンス!」
とばかりに“超”短期的な成果に過度の期待を
寄せるようになってきました。
 
もちろん、ビジネスである以上、
安定的な収益を稼ぐことは必要です。
「中国の教育格差是正に貢献する」という
事業目標達成のためにも、事業は
持続可能性のあるものでなければなりません。
しかしながら問題は、
事業が目指してきた目標が、
いつの間にか、極めて短期の数値目標に
置き替わってしまったことなのです。
 
そもそもプロジェクトでは、
腰を据えて新しい事業の枠組みをしっかりと
築くことを念頭に、初期は投資期間とし、
何年後かに利益貢献することを
目指していました。
 
しかしながら中国市場の経営層は、
既存事業の枠組みの中に無理やり当てはめ、
来年度の販売計画に押し込もうとし、
どうすれば目先の収益目標に貢献できるか
という尺度で物事を進めようとします。
 
もちろん、プロジェクトメンバーたちとの
間にも軋轢が生じます。
経営層が目先の収益目標達成の見通し無しには
将来の投資を意思決定しようとしない。
しかしそれでは小手先のことしかできず、
新規事業としての意味をなさない。
全く前に進めない状況の中で、プロジェクトは
すっかり硬直化してしまったのです。
 
その結果、ある日突然、香港支社の
ジェネラルマネジャーが交代。それを機に
プロジェクトメンバーの大半が次々に
去ることになってしまいました。
 
プロジェクトのリーダーだった女性は、
20年間この企業に勤めてきた人。
何とも言えない理不尽さを感じながら、
彼女は別のスタートアップに
転職する道を選びました。
 
先日、上海出張の折に
久々に彼女と再会しましたが、
すでに吹っ切れたように新しい職場で
活き活きと働いている様子。
 
「スタートアップの意思決定の速さには
本当に驚いてる。でも速さより
もっと驚いているのは、
意思決定の軸が決してぶれないことね。
自分たちが目指した事業の目標が明確だから、
当たり前ではあるんだけど。
今の会社の1年は、まるで
前の会社の3年分のように感じるわ」と
笑っていました。
このエピソード、実はどこの会社でも
起きているような出来事ではないでしょうか。
 
例えば、上場企業への四半期決算報告の
義務化に象徴されるように、
現在はますます、短い期間内での
収益計画の進捗や目標達成を
評価されるようになってきています。
 
確かに、産業革命の真っ只中にある現在、
変化のスピードに乗り遅れないためには、
自分の立ち位置を常に客観的に判断し、
柔軟に鋭敏に次の動きを変えていくことが
生命線といえます。
 
自分の立ち位置、すなわちゴールへの距離や
それまでの成果を、関わるメンバーたちの間で
分かりやすく共有するために
KPIなどの数値的目標が存在するわけですが、
問題は、誰もがわかりやすい数値に
置き換えた瞬間に、周囲もメンバーも、
目の前に横たわる短期的で明快な数値に目を奪われ、
本来目指していた志や目標を見失ってしまうことです。
 
うろうろアリはそもそも
目先の餌場だけを見て動いてなどいません。
もっと遠いかもしれない、
大きな山に向かって進んでいます。
だからこそ、あちこちで壁にぶつかり
失敗もするのです。
短期的な目標達成でいえば明らかに失格。
 
しかし、それで評価してしまっては、
大きな山に登ることは決してできない。
うろうろアリの力を活かし
イノベーションを起こすには、
評価する側もされる側も共に、
目先の数値目標で塗り固めた短期成果地獄に
陥らないことを肝に銘じておくことが
重要だと思います。
 
いよいよ次回からは、このような地獄に
陥ることなく、個人として組織として、
いかにうろうろアリの力を活かし
育てていくかについて書いていきます。
 
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★「うろうろアリでいこう!」の連載記事は、こちらからご覧頂けます。

唐川 靖弘プロフィール
外資系コンサル、広告代理店戦略プランニングディレクターを経て、2012年から米国コーネル大学ジョンソン経営大学院 Center for Sustainable Global Enterprise マネージングディレクターとして、多国籍企業による新規ビジネス開発プロジェクト・新市場開拓プロジェクトをリード。
同時に、「うろうろアリ」を育成することをモットーとし、自身の会社EdgeBridge LLCを基点に、ifs未来研究所(伊藤忠ファッションシステム)の外部研究員、ファッション系広告代理店戦略顧問、大手企業人材育成プログラムディレクター、大学の客員講師としても活動。1975年広島県生まれ。
Cornell University MBA (経営学修士)。INSEAD Executive Master in Coaching and Consulting for Change(2019年修了予定)。
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©2018 Yasuhiro Karakawa/EdgeBridge

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