未来のおしゃべり会

【12月4日 おしゃべり会・第1回】五感で感じられるものは、価値が高いということ。

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川島蓉子と社長の未来のおしゃべり会
ゲスト:寺尾玄さん(バルミューダ株式会社)
テーマ:ビジネスには、カッコいい感性が必要だ。
開催日:2015年12月4日(金)

ifs未来研究所の所長・川島蓉子が、「この人は絶対、面白そうだからお話を聞いてみたい!」と思う人を招いてトークをする「おしゃべり会」。
 
今回のゲストは、バルミューダ株式会社の寺尾玄社長。
デザインのお仕事をされている方は、扇風機「GreenFan」の名をお聞きになったことがあるでしょう。2010年に発売された、そよ風みたいな心地よい風を吹かせる扇風機は、大ヒット商品になりました。風を味方につけ、追い風びゅんびゅんで会社も上昇ジェット気流……というわけにはいかなかったようです。
 
その後、いくつかの空調家電を発表しますが、思うようなヒット商品には恵まれなかったようです。しかし、2015年春、画期的な商品が発売されます。その名も「BALMUDA The Toaster」。空調家電から一転、キッチン家電で新たな挑戦を仕掛けたのです。
しかも価格は2万円を超えるもの。トースターの開発経緯を聞くと、それは偶然の連なり……のように思えて、何千枚ものトーストを試食しての実験の積み重ねだったようです。
 
製品にも社員にも愛情と情熱がメラメラと燃える寺尾社長は、非常に魅力的な方でした。トーク終了後には、渾身のカリッともちもちトーストの試食会もあり、大いに盛り上がるトークイベントとなりました。

寺尾玄さんプロフィール
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てらお・げん/1973年生まれ。高校を中退し南欧各地を放浪。帰国後、音楽活動を経てモノづくりの道を志す。町工場への飛び込みと独学で、設計、製造の知識を習得し、2003年、有限会社バルミューダデザイン(現バルミューダ株式会社)を創業。2010年に発売された、2重構造の羽根を持つ扇風機「GreenFan」が大ヒット。その後2015年に「BALMUDA The Toaster」を発売。価格は2万円を超える高級家電ながら、現在予約殺到のヒット商品となる。

  
★ ★ ★ 
 

第1回: 五感で感じられるものは、価値が高いということ。
 
川島蓉子(以下、川島): 寺尾さんとの出会いは、5年くらい前。知人から「風について語る、ヘンテコですごい不思議な人がいるから会って欲しい」と言われて、お会いしたのがきっかけでした。その時に、「何故この人は、風のことをこんなに熱心に、ものすごい勢いで語るんだろう」と思っているうちに、あっという間に扇風機が大ヒット。
 
また、最近はスチームトースターが大ヒットしたということで、数か月前、再度取材に行きました。まずは、寺尾さんに自己紹介をしていただいてもよいでしょうか。
 
寺尾玄(以下、寺尾): 現時点で言うと、「家電メーカー」として知られている「バルミューダ」という会社を創業して13年目になる寺尾です。今日はよろしくお願いします。
 
川島: 後で試食をしていただきますが、本当にビックリするほどおいしいんです。
まずは何故、扇風機からトースターに行き着いたのかをお伺いしたいです。
 
寺尾: 2010年に「GreenFan」という扇風機を発売したのですが、その後、おかげさまで皆様に認められて、ある程度のヒットになりました。調子に乗って加湿器、ヒーター、空気清浄機という空調周りの家電分野で製品を広げたんですが、売れるものもあるし、売れないものもある。
 
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川島: 私は全部ヒットしていると思っていました。どれが売れて、どれがマズかったのですか?
 
寺尾: 特に強いのは「GreenFan」ですね。あとは、だいたい弱いかな(笑)。
 
川島: 「GreenFan」以外は、さほど売れていなかった?
 
寺尾: そうですね。扇風機があまりに売れたんで、調子に乗っていたと思うんです。それで深く考えずに、新商品の開発をやっていったら大変なことに。
 
結局売れるのは「GreenFan」ばかり。そこで、なぜ扇風機だけがこんなに強いのかを考えてみたんです。その一番の理由は、「風が気持ちいい」ことでした。次に「静かで、見た目がいい」こと。
つまり、「GreenFan」は、視覚と聴覚と触覚で感じられるメリットがある。それを考えた時に「五感で感じられるものは価値が高い」のでは、と思ったんですよ。
 
私たちは、「もう消費者は、モノを買っていない。買っているのは体験だろう」という仮説を立てているんです。
体験って、五感で感じるものですよね。現場に入って行って五感で感じて、頭や心を使うことが、「体験」ですよね。その「体験」を提供するためのモノやサービスだったら、求められる。
 
「素晴らしい体験を提供しよう」と思ったのが、「BALMUDA The Toaster」なんです。実は、私たちの身の回りで五感を使って体験するものって、食べることくらいしかないんですよ。
 
川島: 食べることは五感を使いますか?
 
寺尾: 全部使いますね。「見ておいしそう」「ジュージューいうのを聞いておいしそう」「噛んだ時の触覚」「香り」「味」全部です。そこに関連する商品をやりたいな、とキッチンを見回しながら考えました。何故トースターにしたかというと、私が昔から、朝は毎日トーストを食べていたから。
 
川島: トースターって、とっても安いものもあるし、いくら機能的だからといっても、そこまでお金を使うものでもありませんよね。でも、寺尾さんは敢えてそこに挑戦してみようと思ったんですね。
 
寺尾: 私たちは、扇風機での成功体験があります。家電業界の市場って、完全に終わっているわけではないけれど、何のイノベーションも起きずに、企業の強度さえなくなっている。僕らは2~3千円で売ってる扇風機にイノベーションを起こして、3万円で売って成功した。
 
これは、我々にとっては勝ちパターンなんです。なぜなら、他社さんが注力していないに等しい市場だから。そこにイノベーティブな工夫とセンスを持って勝負を挑むと、勝つ可能性が非常に高いですね。
 
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川島: でも今回の商品は、その勝ちパターンが見える前から、寺尾さんご自身がトーストを「好き」だったというのがあったんじゃないですか?
 
寺尾: そうですね、トーストは毎日食べてもいるし、今よりもおいしくできるなとは思っていました。
 
あと、プライベートな話になるんですが、トーストの原体験がありまして。私は17歳の時に高校を辞めて、スペインとかイタリアとかモロッコとかを、一人で約1年かけて周ったことがあったんです。
 
その初日にスペインの首都のマドリッドに着いて、国内線に乗り換えてマラガに行って、さらにバスで4時間くらい山道を登ってロンダという目的地の町に着いた。当然ながら知っている人は誰もいなくて、一人ぼっちですごく疲れていて、不安だったんです。カッコつけて日本を出てきたはいいけれど、ものすごく寂しかった。
 
そんな時、街角から匂いがしてきて。パン屋さんからの匂いだったんです。その小さなパンを食べた時に、ドーッと涙があふれてきたんですね。そして、涙が出た後に元気が出た。
 
川島: いい話ですね。確かに五感で味わってますね。
 
寺尾: その時に感じたのが、食べることって食べ物がなくなるんじゃなくて、エネルギーが移動しているんだと。だから元気になれたんだと。
つまり、そういう体験をすることで、たくさんの人の人生が少しだけよくなる可能性があるんじゃないかって思ったんです。
 
川島: その原体験からずいぶん年月が経っていたと思いますが、どういった経緯でトースターを作ることになったのですか?
 
寺尾: これもまた偶然だったんですけれど、去年の5月くらいだったかな。会社の近所の公園で、社員全員集めてバーベキュー大会をやったんです。
 
川島: 何かの記念で?
 
寺尾: 特に何もなく。「なんか肉食いたいね」ということで。そうしたら、当日ありえないくらいの土砂降り。でも決行したんです。もちろんバーベキュー場は我々だけ。
 
その時に、会社の人間が食パンを持ってきていたんですよ。私が「トースターをやりたいな」と言い始めていた頃だったので、気を利かせたみたいで。
炭火で焼いてみたら、ものすごく美味しかった。周りはカリカリで、中はふわふわのアツアツで。「これこそ、バルミューダのトーストの味だ!」と目標が決まったんです。
 
さっそく次の日から、会社の駐車場で、炭焼き実験を始めたんです。
でも、どうも違うんですよね。パサパサになってしまって美味しくない。それは炭の種類が悪いのかとか言いながら、実験を繰り返していたんですね。
 
そうしたら、社員の一人が「そういえば、土砂降りでしたね」って言ったんです。そう、炭の美味しさじゃなかったんです。「土砂降り」がおいしさを作っていたということがわかったんです。湿度が高くて、細かい水の粒が空間を漂っている状態なんですよ。その水の細かい粒が食パンの表面について、何かの作用を起こすのだろう、という仮説を立てて、一気に水の方に行ったんです。
 

川島: なるほど。そこからはスムーズだったんですか?
 
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寺尾: いや。水の量もわからないし、どこから出せばいいのかもわからなかった。最初はトースターの下に大きな穴を開けて、電気ケトルを下に入れて、超原始的なものを作ってみました。蒸気を出し過ぎてふにゃふにゃになったり。失敗を重ねていまの形になりました。
 
そして、湿度と同様に温度制御も重要だ、ということがわかった。私たちはテクノロジーの会社なので…全ての料理というのは、化学反応なんですよ。食パンとトーストって何が違うかというと、色も質感も違う。それは熱によって変化する。食パンの場合は、60℃前後で、でんぷんがα化する温度帯と、160℃前後のメイラード反応ができる温度帯がある。
 
川島: メイラード反応って何ですか?
 
寺尾: 褐変反応といって、色が白から茶色に変わって香ばしい香りがすること。このメイラード反応を起こす時に、香ばしい香りが出て、色も茶色く変わって、固さも変わる、という現象が起きるんです。
 
次に重要なのが、220℃。これは、炭化が始まる温度。逆に言うと、160℃を保っておけば焦げない。科学的なところをまず押さえて、美味しくなりそうな温度制御の仮説を立てて、それに向けてプログラムを組む。その後は、ひたすら試食をしながら補正していきました。
 
川島: 試行錯誤を繰り返し、山のようなパンを食べたんですか?
 
寺尾: 5,000枚焼きましたね。
 
川島: 5,000枚! どのくらいの期間開発したんでしょうか?
 
寺尾: 約1年ですね。結局一番長くやっていたのが、制御の部分なんです。
 
川島: 使い手はそういうところって全然知らなくて、製品は魔法のようにできちゃうと思ってしまうのですが、そこに実は大変な苦労があったということですね。
  
第2回▶▶ トースターのデザイン。おいしそう、をデザインすること。

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