未来のおしゃべり会

【12月4日 おしゃべり会・第2回】トースターのデザイン。おいしそう、をデザインすること。

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川島蓉子と社長の未来のおしゃべり会
ゲスト:寺尾玄さん(バルミューダ株式会社)
テーマ:ビジネスには、カッコいい感性が必要だ。
開催日:2015年12月4日(金)
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★ ★ ★ 
 
第2回: トースターのデザイン。おいしそう、をデザインすること。
  

川島蓉子(以下、川島): 5,000枚のトーストを試食された開発段階を経て、見た目のデザインについて、お話をお聞きしたいのですが。
 
私は、最初に「BALMUDA The Toaster」を見たときに、「かわいい顔をしたトースターだな」と思ったんです。もっと正直に言ってしまうと、それまでのバルミューダ製品って、「カッコいいんだけれど、部屋に置くとちょっとなあ」と思っていて。
 
というのも、我が家は全然カッコいい家じゃないんです。そういうところにあんまりカッコいいモノを置くと浮いてしまうんじゃないかと思って。でも、このトースターはキッチンにフィットすると思いました。
 
以前のインタビューの時に、高いハードルがあったというお話をされていたのが興味深かったです。「おいしさ」と「カッコよさ」についてのお話を聞かせてください。
 
BALMUDA The Toaster2
寺尾玄(以下、寺尾): まあいつものノリで、「カッコいいトースター」を作ろうってデザインが始まったんですよ。でも、何か決まらない。
ウチの会社では4人のデザイナーが同時に動いて、いつもだったら3ヶ月も動かせば何かが見えてくるものなんです。でも、それがまったく決まらない。
 
これは、おかしいという話になり、普段のやり方と価値観をまったく変える必要があるかも、と思い始めて。「涼しい風が出て来るのと、おいしいものが出て来るのって全然違う」ということに気付いたんです。
 
川島: 当たり前と言えば当たり前かもしれませんが、風と味は違う、そこに気付かれたんですね。
 
寺尾: そうなんです。何度やってもプリンターみたいなデザインになってしまう(笑)。そこで、みんなで「おいしいものが出てきそうなもの」を考え始めた。
 
そして、候補に上がったのが、映画『魔女の宅急便』のおばあさんの家にある、ニシンのパイが出てくるかまどだったんです。確かにおいしそう! と盛り上がったんですが、かまどそのものは、まったくデザインの参考にはならない。
 
だから、その雰囲気だけでも抽出できないかと思い、少しクラシックな方向に振っていった。でも、現代の家庭に置くものなので、モダンさも必要というバランスで考えていきました。
 
川島: おいしく見えるためにデザインで気を使ったのは、他にはどこがありますか?
 
寺尾: “おばあちゃんのかまど”というコンセプトに基づいて、かつ、モダンクラシックな方向性をみんなで一生懸命考えていったんですが、いわゆる丸っこいレトロモダンなデザインではダメで。ブレイクスルーになったのは、窓を小さくしたことだったんです。
 
川島: 確かに、この窓は小さいですね。それは敢えてのことだったのですね。その案が出てきた時に、「これだ!」と思われた?
 
寺尾: そうなんです。何故、小さい窓だとよいかというと。おいしいものってのぞき込みたくなるじゃないですか。その要素をクラシックなデザインの中に組み込んでいったことで、いろんな可能性がバッと開けてゴールが一気に見えてきたんです。
 
川島: なるほど。我が家でもこれを使っているんですが、窓が小さいのはいいところと悪いところがあって。おっしゃるように、のぞき込む楽しさはすごくあります。
 
一方で機能的には、もう少し見えてもいいかも、と思う時もあります。主婦なので、バタバタしながら合間を見ていろいろな作業をしているので、焼き過ぎないかな、という不安がちょっとある。だから、工業製品というのは難しいと思います。
 
メーカー名は言えませんが、バルミューダを使う前には、いかに窓を大きくするかに徹した某ブランドの製品を使っていて。それは、全面ガラス張りのような感じだったのですが、それと比べても、やはり、のぞき込む感じは楽しいんです。
 
寺尾: 「不便だけれど、楽しい」「便利だけれど、楽しくない」。どっちがいいのかな、という話だと思うんですよ。どっちもアリだと思うんですけれど。
 
川島: 価値軸は、いろいろあっていいんですね。
 
寺尾: 家電とは何かと言うと、単なる「電気を使う道具」なのだと思います。道具という意味では、爪切りもハサミも、iPhoneも道具。
道具って、在るべき形を手にいれると成長がストップする。ハサミなんて、6,000年前の遺跡から発掘されていて、もう何千年も前から道具として成熟してしまっている。
 
電気を使い始めたのはここ数百年の話ですが、まず家電に課された使命というのは、「人の生活をラクにしなさい」というコンセプトだったと思うんです。冷蔵庫や洗濯機がなかったら、生活は大変ですよね? 生活を便利にするということで始まって、ある意味広がりきったと思う。
 
川島: そうですね。先進国や日本では完全に広まった、と言っていいと思います。
 
寺尾: そうなると、人々は既に家電を持っている。メーカーは、人が持っているものを作るんです。結局、少しだけ機能をアップさせて、値段を上げて、買い替えを促す。これは商売として、なかなかキツイですね。
 
持っていない時代は、作れば売れた。それで企業は成長してきたんだと思います。そうなった時に、次は何が欲しいか、という先の価値を提案しないと、人々はもう振り向いてもくれないですよね。
 
だから私たちの場合は、楽しさとか、嬉しさとか、五感で感じる喜び、体験を作っている。それが、冒頭に私が申し上げたことです。
 
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川島: つまり、体験を作っていくことが、バルミューダの仕事である。
 
寺尾: はい。なので、「良い体験をさせるためには、多少不便でもいい」くらいに割り切らないと、追究できないと思う。先ほど川島さんがおっしゃった「窓が小さいのは楽しいんだけれど、不便だよね」というのは、それぞれの企業のセンスとか、方針に基づくものなんだろうと思います。
 
川島: 今のお話で体験を作っていくということになると、今後のバルミューダが作るものは必ずしも家電ではない?
 
寺尾: おっしゃる通りですね。「BALMUDA The Toaster」のコミュニケーションで気をつけたのは、「トースター」の宣伝を一切しなかったということです。「トースターでなくて、トーストを宣伝しよう」、という策に出たんですね。それはすごく上手くいっているな、という実感があります。
 
川島: どういうことでしょうか?
 
寺尾: 例えば、「おいしいお米を食べましょう」と言った時、お米を炊くのは、必ずしも炊飯器じゃなくてもいいですよね。鍋炊きの方がおいしいかもしれないし。
 
川島: なるほど。言われることはすごく納得がいきます。私は、たまたまグッドデザイン賞の審査員を13年間やっていて、“白物家電”と呼ばれる、キッチン周りの審査をずっとしているんですよ。その進化の仕方を見ていると、ちょっと考えさせられてしまいます。
 
例えば、炊飯器なんて完全にモノありきで、中には日常の暮らしとだいぶかけ離れた高級なモノが登場したり、体験が想像できないものが毎年たくさん出てくる。それは、市場が成熟しているのにモノありきで、次々作らないといけないからなんですね。寺尾さんは、そうじゃなくて、「おいしいご飯をどう食べるか」というところから考えればいいと。
 
寺尾: そうです。
 
川島: そういうことを、もっともっとたくさんのメーカーができるようになっていくと、変わっていくのかもしれないですね。
 
あと、もうひとつ質問があります。私は寺尾さんの話を取材で丁寧にきいたから、「バルミューダってすごい」とか「体験を売っているんだ」という開発ストーリーも存じ上げているんですが、消費者の方たちは店頭で商品を見るだけじゃないですか。トースターなんて数千円でも売っているものを、2万円以上もする価格で売っていて。
 
さらに、スチームトースターという新しいものを消費者の方たちにどうやって伝えていくのか。要は、コミュニケーションについてどう考えているのかをお聞きしたいです。「GreenFan」の時には、寺尾さんがドサ周りしたじゃないですか(笑)。そういうことをしたわけでもないんですよね?
 
寺尾: すごく難しいです。今回もPR部隊も動いていますし、店頭でも試食イベントをやっています。コミュニケーションとしては、やはり食べていただくのが一番で、空調とかよりも、反応は早いですね。
 
川島: 「BALMUDA The Toaster」は、いま大ヒットになっているそうなんですが、売れすぎることへの危機感みたいなものはありますか?
 
寺尾: 本当に売れ過ぎたのなら、それはそれでいいかな(笑)
 
川島: 扇風機みたいに作り過ぎて在庫が増えちゃったらどうするのですか……。でも、トースターは夏だけじゃなくて通年で売れるからいいのか。
 
寺尾: そうなんですよ。ただ、12月、3月がピークというのはあります。キッチン家電の買い替えが多いので、全般伸びます。あと、新生活が始まる3月と、結婚が多くなる6月も狙っています。
 
でも、我々がプロモーションやコミュニケーションでやっていることは、「地道に頑張りましょう」、それだけなんですよ。それで万一、社会現象になるほど売れると、やはり短命に終わります。でも、それはそれでいいじゃないですか。
 
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川島: なるほどねえ。モデルチェンジはするんですか?
 
寺尾: よく言われるんです。「モデルチェンジしなよ」って。普通はひとつの製品を出したら、少しバージョンを変えたものを3種類くらい出しますよね。
 
川島: あとは、年に一回は新しいモデルを出すとか。
 
寺尾: そういうことをやらないんですよ。それは大いに、私の性格に起因していまして。一回やったことってつまらないんですね。
 
川島: 飽きちゃうんですか?
 
寺尾: そうなんです。開発ってものすごく大変だから、ノウハウはあるんです。
 
川島: それと、使い手からの願いで言うと、たぶん「BALMUDA The Toaster」は、世界初のスチームトースターですよね。「世界初」ですよね? そんな素晴らしいものを作ったのならば、やっぱりマーケットの反応ってあると思うんですよ。それを取り入れながら、さらに進化したものを作ってもらう方が、使い手は嬉しいし、きっと買いますよね。
 
寺尾: そうですね。おっしゃる通りです。
 
川島: これは飽きないで、社長、愛していただきたいんですけどね。
 
寺尾: はい。今そこら辺のことをね、すごく考えていて。マズったなあ、と思っているんですよね。数年間のモデルチェンジのことを。
 
川島: 新商品を開発するような情熱で、モデルチェンジってできないんですか?
 
寺尾: できないです。
 
川島: だって、今のモノをもっと良くしてあげるんですよね?
 
寺尾: 情熱って、ギャップが大きければ大きいほど、燃え盛るんですよね。だから「0」のモノを「1」にすることが一番燃えるんですよ。
 
川島: なんか男の人っぽいなあ。なるほどね。
 
寺尾: だから、8を9にするとか、あまり燃えないんです。
 
川島: 燃えない!? ……そういう役割の人を連れて来るのがいいかもしれませんね。
 
寺尾: おっしゃる通りだと思います。
 
川島: でも、そうやって社長が次々と燃え盛っていただかないと、会社も困ると思うので。次の燃え盛りのネタは何かあるんですか?
 
寺尾: あるんです(笑)。
  

第3回▶▶ 会社の経営において「愛し過ぎ」から「愛」に変えるのが、すごくつらい。

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