未来のおしゃべり会

【10月17日 おしゃべり会レポート・第2回】身体を使う喜び。心が動く豊かさ。

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未来のおしゃべり会 ~暮らしにまつわるデザインの話~
●日時:2017年10月17日(火)18:00~20:00
●ゲスト:佐藤卓さん(佐藤卓デザイン事務所 グラフィックデザイナー)

第1回記事はこちらから
 
★ ★ ★
 
第2回: 身体を使う喜び。心が動く豊かさ。
  
 
佐藤: 身体を使うということを基準に、便利を獲得する。僕は便利を否定しているわけじゃないんですよ。便利を否定するのは、文明を否定することになるので。
 
川島: 按配が難しいけれど、「自分の身体に聞く」、ということですね。
 
佐藤: 身体を使わないようにするのではなく、使いながら「便利」を考えていくと、今までとはちょっと違ったベクトルにテクノロジーが向くんじゃないか、という気がしています。
もちろん、身体の弱い方などもいらっしゃるので、身体に負担を掛けないテクノロジーも必要ですが。身体を使うのって、結構、「喜び」のような気がしていて。
 
川島: その喜びを、多くの人が忘れていますよね。頭ばかり使っているから。頭ばかり使っていると、仕事の精度が上がって行くんでしょうか?
 
佐藤: 養老孟司さんの仰る、「脳化社会」ですよね。脳で全部済ませようとする、脳で考えたことで全てを収めようとする、というか。その弊害が出てきているような気がして、もっと身体で捉えることが必要だと思っています。
 
川島: あと、「心が動く」、「感覚が動く」ということも大切。私も、マーケティングでものすごい分厚い企画書を読むことがありますが、会議で詰めれば詰めるほど、理屈理論は合っているけれど、何1つ心が動かないんです。
こんなにモノに溢れている世の中なので、お客様は「あ、おいしそう」とか、「心」から入っていくんじゃないかと思うんですが…。
 
佐藤: いわゆる、「感覚」ですよね。言葉で全て説得しようとするし、理解させようとしてしまうけれど、人は誰でも言葉より先に、感覚で受け止めているわけなので。
言葉は、一瞬で生まれてきちゃうけれど、実は言葉化される前の状態がとても重要。でも、そこが蔑ろになっている気がします。
 
川島: なんででしょうね。
 
佐藤: きっと、言葉の強さや理屈理論の説得が、近代化と共に強くなっているからだと思います。昔は、もっと感覚的に生活をしていたと思うし。「明日は、雨が降りそうだね」という感覚をみんな持っていたけれど、今では天気予報を先に見てしまう。
 
川島: 確かに。
 
佐藤: 自分の感覚なんて全然信用していないというか、感覚を持っているのに、蓋をしているような。自分も含めて、そういう風になっていると思います。
 
川島: もう一回、自分の感覚も気にしてみる、ということが大事ですね?
 
佐藤: だって、それって豊かなことですよね。
 
川島: でも、企業だと、それが通らなかったりするんですよ。
 
佐藤: わかりますよ!(笑)。私も、それなりにいろんな会社とお仕事をしていますので。
 
川島: どうやってクリアするんですか?
 
佐藤: ちゃんと言葉も組み立てるんですが、私の場合は、自分が作ったモノがすべてだとは、全然思っていないので。
 
川島: 思っていないんですか?
 
佐藤: 全く思っていない。コミュニケーションを取りながら、いっぱい案を出しますから。「これが私のデザインです。どうですか?」というよりも、様々な考え方で作ってみて、ディスカッションをして、そこでいいアイデアが更に出たら、どんどん取り入れるので、自分の考えを押し付ける気は本当に無い。だって、基本的には議題があるもので、作品を作っているわけではないので。
 
川島: それを達成するのがデザインである?
 
佐藤: 「達成」という言葉がいいかどうかわからないけれど、それにお応えすることが仕事なので。だから、一緒に作るというか。若いときには余裕が無かったのですが、今では反対意見を面白いと思うようになりました。
 
川島: でも、佐藤卓さんのデザインをダメと言うクライアントはいるんですか?
 
佐藤: 全然いる。いなかったら危険ですよ。
 
川島: どう危険なんですか? 先生扱いでちやほやされるということ?
 
佐藤: いや、それはもう終わりじゃないですか? 晩年というか終盤。だって、自分がやっていることが全部正しいなんてありえない。
 
川島: どんな人でも?
 
佐藤: と、思います。だから、私の仕事は、できるだけコミュニケーションを取りながら、一緒に見つけていく感じです。「やっぱり違うんじゃないかな?」と思ったときには、なぜ違うのかをお話したり、逆に自分の志向と異なる案が挙がったときには、「なんで、そう思ったんですか?」と相手に深く入ることで、理解できることもある。だから、反対意見は面白く、今やとても興味があります。
 
川島: 延々と平行線、ということはないんですか?
 
佐藤: もちろん、そういう場合もあります(笑)。やり取りが面白いので、できる限り、「なぜ、そういう意見が出るのか」という背景を聞くようにしています。私は“目に見える化するスキル”は持っているので、どちらにするのかを決めるために、相手の考え方をカタチにしてみる。
 
川島: それは平面かもしれないし、立体や映像かもしれない。何らかの方法でカタチにするのがデザイナーの仕事だと。
 
佐藤: そうですね、どんな方法でもできるので。カタチにしてみると、「なるほど、こうなるのか」と、反対意見を言った人の考えが変わったりもする。それも、1個じゃなくて、いくつかのパターンを見せたり。
同じモノを見て、同じ土俵に立って、「10年後のことを考えると?」、あるいは「3ヶ月のプロジェクトであれば?」と、一緒に考えます。
 
川島: そうやって投げかけてみると、答えが変わって来ますか?
 
佐藤: 変わって来ます。
 
川島: 過去に、私もあるプロジェクトでデザイナーに入ってもらったのですが、彼が勝手にカタチ化してきたことがあります。それまでは、言葉だけで会議をしていたのですが、カタチ化されたモノを見ると、みんなの気持ちが本当にぎゅっとなるんですね。あれはびっくりしました。
 
佐藤: 逆に、「これはないな」、というのもわかるしね。
 
川島: プロジェクトを大きく前に進ませるためには、デザイナーの力は大きいと思って。
 
佐藤: 最近良く言われている、「デザインシンキング」も、その1つの方法だと思います。理屈だけで基本的な設計をして、「じゃあ、ここからデザイナーにお願いしましょう」というやり方は、ものすごく古い。デザイナーと一緒に組み立てていくようにしないと。
 
川島: もう、デモのときから入っていくような感じですね。
 
佐藤: そのほうが、結果として無駄が少ないし、上手くいく確率も上がる。でも今までは、デザインは、最後の仕上げの仕事だと思われていたんですよね。
 
川島: 色、カタチと思われていたから。
 
佐藤: そう。だから、名前も中身も設計も決まって、じゃあここからはデザイナーにお願いしましょう、と渡されて。
 
川島: 困りますよね、両者とも。もったいないですね。
 
佐藤: だからデザイナーの意識も変わらないといけない。最初から、ものごとの設計をする。コンテンツを決めていく段階から一緒に入って行ってやらなきゃダメなんだ、という意識を持たないといけない。渡されて形にするだけでいい時代は、もう終わっています。
 
川島: じゃあ、企業の向かう方向やブランドの向かう方向まで踏み込む、ということですよね。
 
佐藤: 当然、そうなります。
 
川島: そうすると、理想的なのは、長いお付き合いをしていくということですよね。
 
佐藤: そうですね。私は、仕事のやり方を決めているわけではないのですが、本当にありがたいことに、長年のお付き合いをさせて頂いているところがいくつもあって。
 
でも、こんなこともありました。以前、名称も中身も既に決まっているパッケージデザインの仕事の依頼を頂いたのですが、その会社のロゴが、「一体いつまで使うんだろう?」と思うような、賞味期限切れのロゴだったんです。
 
川島: それでロゴを変えたんですか?
 
佐藤: いいえ、違います。ロゴマークは会社の顔なので、会社の理念を表現し、これからのビジョンが見えるモノではなくてはならないことを丁寧に伝えました。そして、いつ作ったロゴなのかを聞いたら、意外と最近で。
 
川島: 困ったもんだ(笑)。
 
佐藤: 非常に困りました。「なんで、このロゴになったんだろうな?」と思ったんだけれど、それを丁寧に伝えました。
 
川島: 本当に言ったんですか?
 
佐藤: はい、笑顔で素直に。ロゴが出来た経緯をお聞きしたのですが、時代性を反映したロゴだったので、5年も経つと古くなってしまうということが、プロが見るとすぐに分かるんです。
それで、最後に「申し上げていいかわかりませんけれども、このロゴは定番として世の中に残っていくとは思えないんです。デザインの主張が強く、カタチや色がメインになってしまっているので、奥にある理念に意識が行きません。」、「このままで、本当にいいんでしょうか?」というようなことを、丁寧にお伝えしました。
 
川島: ロゴマークの仕事も来たんですか?
 
佐藤: 来ませんでした(笑)。恐らく担当の方の領域を超えていて、できなかった。
でも、こういうこともありました。ある企業のトークショーで対談することになったので、トークショーの前に発表会を見に行ったんです。商品が全部並んでいたのですが、ちょっと残念な問題が…。
 
川島: 今度は、何が残念だったんですか?
 
佐藤: 何から何まで残念だった。でも、デザインの仕事を依頼されたわけでもないのに、それを伝えてしまうのも失礼なので、「全体性が無くて、このままでよろしいんですか?」ということを丁寧に伝えました。
 
川島: やっぱり言っている(笑)。
 
佐藤: 言ったかもしれないですね(笑)。「もっと詳しく聞きたい」と興味を持ってくださり、ちょうど会社がそういうタイミングだったということもありましたが、CI(コーポレートアイデンティティ)の仕事に発展しました。
一方で、「このロゴはちょっと…」と言った途端に仕事がパタッと無くなる場合もあります。
 
川島: 大きい仕事になることもある。
 
佐藤: 別に、大きい仕事をしたい、というわけではなくて、「デザインで、社会のためになりたい」、というか。「本音はちゃんと伝えたい」、というか。
 
川島: デザイナーとして仕事をしていて、もっとも嬉しい瞬間や、達成感を感じる瞬間ってどういうときですか?
 
佐藤:  仕事によってそれぞれ違いますが、例えば、コンビニエンスストアに行ったとき、レジで自分の前に並んでいる人のカゴの中に、「おいしい牛乳」が入っていたりなんかすると、嬉しい。
もちろん、牛乳そのものはメーカーと牛さんが作っているんだけれど、デザインで繋ぐことができたかな、ちょっとお役に立てたかな、という実感が湧きます。
 
川島: 自分が関わった仕事って、それだけ可愛い存在なんですね。
 
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不安があるから、元気でいられる
 
佐藤: 仕事をしていて嬉しいことは、「モノ」である場合もあれば、目に見えない「コト」だったりもするけれど。自分だけではなく、クライアント企業と一緒に作るんですが、そのメンバーの1人として、「ちょっと、社会のお役に立ったかな」と実感できることが一番嬉しい。作っている最中や、出来上がった瞬間が一番嬉しい、ということではないです。
 
川島: 世の中の何らかの役に立って、価値を生み出す。
 
佐藤: 価値は、私が言うことじゃないけれど。
 
川島: お客様が決める、ということですね。これまで手掛けた仕事の中で、密かに「これは出来が良かった」とかいうのはあるんですか?
 
佐藤: 安心するということはないですね。
 
川島: 上手くできたと思ったことがない?
 
佐藤: ない。生物学者の福岡伸一さんの言葉では「動的平衡」という言い方をしますが、世の中は常に流れの中にある。つまり、デザインに完成ということはないんです。
「完成度が高い」とか、よく耳にするじゃないですか。でも、いずれゴミになり、再利用されたりと、結局止まっているモノは何1つ無くて、ゆえに安心できることも何1つ無い。
 
だから、完成までは「店頭でどう見えるのか」とシミュレーションしかできなくて、実際に店頭に並んで、初めて分かることもあります。次回、リニューアルするときには、こうした方がもっと良くなるとか、そういうところばかりに意識が行きますね。
 
川島: デザインに限らず、仕事ってそういうものかもしれない。
 
佐藤: そうじゃないですかね。なんか、もう不安で…。
 
川島: 卓さんでも、不安になるんですか?
 
佐藤: いや、本当にドキドキ(笑)。常に「大丈夫か?」、「明日ダメになるかもしれない」って、心配ばかりしています。
 
川島: 楽しそうに見えるのに。
 
佐藤: いやいや。だって、考えてみると、世の中って問題だらけじゃないですか。
 
川島: そうですね。どう生きていけばいいのか、よくわからない。
 
佐藤: これだけ多くの問題がありながら、何1つ解決できていない。こんな状態のときに自信満々で不安が無いという人は、むしろ危険な状態だと思うので、「不安があるということは正しい」と思えると、元気になれます。
だから、「こうしておけば良かったかな」と心配や不安があっても、「また気が付けて嬉しいな」と思えるようになる。だって、また次にでやるべきことがあるから。
 
川島: 次に向かっていくわけですね。何もやらないのではなく。
 
佐藤: やるべきことがあるというのは、転がっていく生命みたいなもので、エネルギー。これでいいんだ、なんて思ったら終わりですよね。
 
川島: じゃあ、卓さんは、次から次にやりたいことが出て来て、ずーっと仕事をしている感じですね。
 
佐藤: そう! みなさんもそうかもしれないけれど、歳を取る良さってある。いろいろな経験を積むことで、問題が発生したときに喜べるし、仕事と遊びの境がどんどん無くなっていきます。
 
川島: それはそうですね。
 
佐藤: 川島さんなんて、「面白くてしょうがない!」、って感じに見えますよ。
 
川島: いやいやいや。でも、私も公私混同です。
 
佐藤: ね。私は、土日も仕事に行っちゃうことが多いんです。もちろん、サーフィンに行ったり、運動することもあるけれど、午後はつい事務所に行っちゃったり。考えることが面白くてしょうがないし、「あ、こんな方法あるかも」って気が付く喜びもあります。可能性が見えてくるときって、面白いじゃないですか。それって、遊びと何が違うんだっていう。
 
川島: 自分の中では、一体化しているんですね。
 
佐藤: それが、歳を取ることの良さかな、という風に。
 
川島: 歳を重ねるにつれて、どんどんそういうことが楽しくなってきて…。
 
佐藤: かな?という気がしています。若いときは、「もう少し自分の時間が欲しい」と思ったりして、仕事と遊びの時間を分ける。
 
川島: ワークライフバランス、ですね。
 
佐藤: バランスっていう言葉自体が、もう分けていますよね。歳を取って来ると、もう分けられないというか。
 
川島: 私は貧乏性なので、ずーっと両方やっていますね。でも、そんなに楽しくなれないんですが(笑)。
 
佐藤: またまた、よく言いますね。その笑顔で。
 
川島: いやいや。楽し“そうに”しているのかもしれない。
 
佐藤: そうは思えないけれど、謙虚に言っているのかもね。
 
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